王道進行はJ-POPでよく使われてきたコード進行で、今までに数多くのヒット曲を生み出してきました。
しかし、王道進行という言葉を聞いたことがあっても「王道進行にどのような特徴があるのか?」「どんなアレンジパターンがあるのか?」といった点はわからない人が多いことでしょう。
今回は、王道進行とはどのようなコード進行なのかを解説します。
- 王道進行のコード進行と特徴
- 王道進行のアレンジ
- 王道進行が使われている有名曲9選
王道進行とは
王道進行とは、J-POPのヒット曲で多用されるコード進行のことです。1990年台以降からJ-POPで使われ始め、2008年にニコニコ動画に投稿された動画で音極道さんが命名していました。
王道進行がどのようなコード進行なのかと、どのような特徴があるかを解説します。
王道進行のコード進行
- ABC表記(Cメジャースケール):F→G→Em→Am
- ディグリーネーム. :IV→V→IIIm→VIm
王道進行は、ディグリーネームでIV→V→IIIm→VImと表記されることから「4536進行」とも呼ばれています。
ディグリーネームとは、スケール上の各音を数字の度数で表したものです。Cが始まりとなる「Cメジャースケール」ではC=Ⅰとですが「Dメジャスケール」の場合はD=Iとなります。
このようにディグリーネームは決まった特定の音を示すのではなく、はじまりの音であるルート音から距離によって、変化するのが特徴です。
王道進行の2つの特徴
王道進行の特徴を2つ解説します。
①明るい響きから暗い響きへ移る
王道進行は前半の明るい響きのメジャーコードから、暗い響きをするマイナーコードへと移っていきます。
前半のIV→Vがメジャコードであり、そのまま明るい響きで進行すると思うことでしょう。しかし、その後のIIm→VImというマイナーコードで一転して暗い雰囲気を醸し出します。
このような思わぬ展開をすることによって、聴き手の感情が揺さぶられ、惹きつけられてしまうのです。
②循環コードが使われている
王道進行は、循環コードであるという特徴も持っています。
循環コードは、違和感なく繰り返せるコードのことです。不安定な音から安定した音へ流れることで、循環コードは構成されています。
コードごとの安定さや不安定さは、以下のとおりです。
- トニック系(安定):Ⅰ、Ⅲm、Ⅵm
- サブドミナント系(やや不安定):Ⅱm、Ⅳ
- ドミナント系(不安定):V
王道進行はIV→V→IIIm→VImという4つで構成されており、IVとVで不安定さを、IIImとVImが安定さを生み出しています。
その結果、循環コードとなるため、王道進行のみでサビが成立できてしまうといった使い勝手の良さが好まれる理由の一つといえるでしょう。
王道進行から派生した3つのアレンジ
王道進行には派生したいくつかのパターンがあります。どのようなアレンジがあるのかと、曲にどういった効果が生まれるのを確認していきましょう。
①IV→V→III7→VIm
- 基本 :IV→V→IIIm→VIm
- アレンジ:IV→V→III7→VIm
「IV→V→III7→VIm」は、3つ目のEm(IIIm)をセカンダリードミナントのIII7に変えた派生系です。
セカンダリードミナントとは、ダイアトニックコードを◯7コードにしたものことで、III7のほかに、Ⅰ7、Ⅱ7、Ⅵ7、Ⅶ7があります。
III7はセカンダリードミナントのなかでも特に使用されることの多いコードであり、米津玄師さんの「Lemon」や Official髭男dismの「Pretender」にも使用されています。
王道進行の基本コードよりも、ドラマティックな曲調となるのが特徴です。
②IV→V→#Vdim→VIm
- 基本 :IV→V→IIIm→VIm
- アレンジ:IV→V→#Vdim→VIm
「IV→V→#Vdim→VIm」は、3つ目のIIImをディミニッシュ(dim)コードに変化させたパターンです。
ディミニッシュコードは、ルート音から半音3つ分と音を重ねた3和音のコードのことをいいます。V#dimはディミニッシュコードのなかの、パッシングディミニッシュと呼ばれるものです。
パッシングディミニッシュは、全音間隔で隣りあっている2つのコードをつなぎます。このアレンジによって、基本パターンよりも悲しさを漂わせる効果が生むことが可能です。
③IV→V→IIIm→VIm→V
- 基本 :IV→V→IIIm→VIm
- アレンジ:IV→V→III7→VIm→V
「IV→V→IIIm→VIm→V」は、王道進行の最後にV(Gコード)を付け加えた派生パターンです。
Fコードに向かって下がっていくことで、コードのつながりが滑らかになるのが特徴。そのため、王道進行を繰り返し使いたい場合に重宝されています。
王道進行を使っている有名曲9選
王道進行は多くの楽曲に使用されています。J-POP、アニソン、ボカロとジャンルごとに、王道進行を使っている有名曲を見ていきましょう。
J-POP
王道進行を使用している有名なJ-POPを3曲紹介します。
①ロビンソン/スピッツ
出典:spitzclips
「ロビンソン」は、スピッツ最大のヒット曲です。
1995年にリリースされ、翌年にはドラマ『白線流し』の挿入歌として起用され話題となりました。
ボーカルの草野マサムネさんが「なぜ売れたのかわからない」と語るなど期待せずに作った曲ですが、人気曲となり、多くのアーティストにカバーされています。
どこか物悲しげな雰囲気を漂わせており、唯一無二の名曲といえるでしょう。
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②全力少年 / スキマスイッチ
「全力少年」は、スキマスイッチがブレークするきっかけとなった曲です。この楽曲で2005年に『NHK紅白歌合戦』へ初出場しました。
出だしから明るく爽やかな曲で、ノリもいいため、一度はカラオケで歌ったことがあるのではないでしょうか。
王道進行を使いながらも、メロディラインを難しくするなど、多くの音楽的工夫が詰まっています。
③いとしのエリー/ サザンオールスターズ
出典:サザンオールスターズ
「いとしのエリー」は、サザンオールスターズ3作目のシングルとして1979年にリリースされたバラードです。
1983年からドラマ『ふぞろいの林檎たち』の主題歌に起用されました。
桑田佳祐さんは、後に妻となるメンバーの原由子さんと一度別れたときに、謝罪の意味でこの曲を作ったそうです。
発売から40年以上経過していますが、現在でも色あせることはありません。
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アニソン
王道進行を使用している有名なアニソンを3曲紹介します。
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①God knows.../涼宮ハルヒ(平野綾)
「God knows...」は、アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』第12話の挿入歌です。涼宮ハルヒの声優を担当した平野綾さんが歌っています。
可愛らしいキャラクターに反して、ロックなギターサウンドと力強い歌声が印象的な、平成を代表するアニソンといえるでしょう。
アニメと同様に実際の学校の学園祭でバンドを組んで歌われるなど、長年愛され続けています。
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②コネクト/ClariS
「コネクト」はアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のオープニングテーマです。
女性ユニットのClariSがデビューした翌年にリリースされ、顔出ししないミステリアスさと少し無機質な声もあり、大ヒットしました。
発売から11年経った2022年にリメイクされ、作成されたMVは素顔では初となる本人映像となっています。
③打ち上げ花火 / 米津玄師×DAOKO
出典:Daoko
「打ち上げ花火」は、アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌です。
米津玄師さんがプロデュースした楽曲で、聴いていると夏の夕暮れや花火といった景色が目に浮かんでくることとでしょう。
アルバム『BOOTLEG』には、米津玄師さんのソロバージョンが収録されており、また違った雰囲気を楽しめます。
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ボカロ
王道進行を使用している有名なボカロを3曲紹介します。
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①みくみくにしてあげる♪/ika
出典:MOSAIC. WAV
「みくみくにしてあげる♪」は、初音ミクを使用して2007年に投稿された楽曲です。
ニコニコ動画にアップロードされると、投稿から8日後までに再生数が50万回を突破するなど、初音ミクブームを代表する曲としてヒットしました。
2012年8月30日には、ボーカロイド史上初の1,000万回再生を達成しています。
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②シャルル/バルーン
出典:須田景凪 バルーン
「シャルル」は、人気ボカロPのバルーン(須田景凪)さんがv flowerを使用して作った代表曲です。
ボカロバージョンだけでなく、バルーン(須田景凪)さんがセルフカバーした動画も投稿されており、合計で1.3億回以上再生されています。
ボカロファン以外にも人気となっており、JOYSOUNDによる2017年発売曲カラオケ総合ランキングで1位を獲得しました。
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③サラマンダー/DECO*27
出典:DECO*27
「サラマンダー」は、長年活躍し続けているボカロPのDECO*27さんが2022年に投稿した通算69作目の楽曲です。
「カップヌードル×プロジェクトセカイ コラボ企画」で作成された曲の一つであり、「チリトマトヌードル」と「辛麺」のイメージから、曲が作られました。
辛味のあるカップヌードルにはまっていく様子を表現した歌詞と、一度聴いたら頭に残るメロディには注目です。
王道進行のまとめ!
王道進行は日本で1990年代以降に使われ始めた定番のコード進行です。数多くのヒット曲を生み出してた進行ということが分かりました。
明るい響きと暗い響きが混在し、小悪魔のように聴き手の感情を揺さぶるという特徴あるコード進行です。
近年使用頻度は少なくなってきましたが、それでも派生パターンも含め、曲の一部に組み込まれることがあります。
王道進行を意識しながら、さまざまな曲を聴いて音楽を深く味わっていきましょう!